1942年に日本で出版された英語を母国語としない人たちのための英英辞典

ドッジボール・ドジャース・カンニング・チーティング

1.ドッジボールの『ドッジ』は『dodge』 、すなわち 『何かを避けるために突然ある方向に身体を動かすこと』 という英語です(開拓社『新英英大辞典』299ページ)。

 

2.ドッジボールは身近なスポーツで、相手が投げつけたボールが飛んできたら身を翻してボールが当たらないようにします。ボールを受け止めると攻守が逆転して味方が相手に向かってボールを投げつけます。

 

3.『dodge』という英語は『ドジャース』というプロ野球のチーム名にもなっています。『何かを避けるために突然ある方向に身体を翻す人々』が『ドジャース』(dodgers)ですが、私は次のような生活風景を読み取っています。

 

4.ドジャースは今はロサンゼルスのプロ野球チームですが、昔はニューヨークの下町のブルックリンのチームで、ブルックリンドジャースでした。ブルックリンでは大通りを電気でゆるゆると動くトロリーバスが来ると、道行く人々がひらりひらりと身を翻してトロリーバスを避けるという生活風景が繰り返されていました。『ひらりひらりと身を翻しながら日々の生活を楽しむ人々』というのが『ドジャース』の原風景です。

 

5.その一方で、この『新英英大辞典』は、『dodge』は 『カンニングあるいはトリックを用いて危険あるいは難題を回避すること』 と説明しています。『ルールの範囲内で機を見るに敏な人たちの集団』という意味を私は読み取っています。『ドジャースはカンニングという不正行為をするチーム?』とんでもありません。

 

6.『カンニング』は日本語では『不正行為』と定義されていますが、そのためには『cunning』という英語についてこの辞書の説明を調べなければなりません。

 

7.『望むものごとを賢明な、あるいは、人を出し抜くような方法で入手すること(clever or deceiving ways of getting what one wants.)』とこの辞書は説明しています。合法・非合法の分水嶺というぎりぎりの状況で、不正の領域に踏み込むことなく、あらん限りの知恵を絞って目的を達成することがカンニング本来の意味と私は受け止めています。

 

8.日本語のカンニングをこの辞書は、チーティング(cheat : act in a wrong or dishonest way to get some advantage : 不正あるいは不正直な手段で利得を得る行為)と説明しています。

 

9.私は開拓社の『新英英大辞典』はインターネットによって、この瞬間においても、世界に向かって開かれているこの上野原市の子供たちの国語辞典となって欲しいと思っています。カタカナになっている英語の本当の意味を正しく知って、世界の人たちとしっかりとコミュニケーションが出来るようになるためです。

 

10.この辞書は1942年に英語を母国語としない人々のためにオックスフォード大学が編纂した辞書で、英国では販売されていない貴重な辞書です。コンピューター関連用語をこの辞書で調べることは出来ませんが、1942年までにあった言葉は、実にやさしい単語で、見事に説明されています。

 

SYSTEM

1.会社の株式をロンドン株式市場に上場する時、オックスフォード大学を卒業したバンカーと議論した時、バンカーは『POCKET OXFORD DICTIONARY』しか相手にしませんでした。この辞書にはシステムとは『complex whole=複雑な全体である』と説明されていました。

 

2.英語を母国語としない人たちのために書かれたこの辞書には、システムとは『a group of parts or objects, often consisting of a principal parts and a number of less important parts, working together according to a purpose, as a railway system; the nervous system of a body.』と説明しています。

 

3.システムとは、⓵眼鏡で言えば、レンズというものとフレームやネジなどの部品の集まりであること、⓶一番重要なものとそれに比べると重要性は低いが、なお、重要な部品で構成されていること、③それらは全体の目的達成のために一時も休むことなくそれぞれの役割を果たしていること、④鉄道輸送システムあるいは人間の体の神経システムがその具体例であるということなのです。

 

4.英和辞典でカタカナで『システム』と書かれても何の説明にもなりません。漢字で『仕組み』と書かれれば一応の説明にはなりますが、この辞書ほど分かり易い説明はその他の英英辞典や英和辞典に見出すことは出来ません。

 

5.眼鏡について、レンズをはめ込むフレームと耳に掛ける弦を繋ぐ小さなネジは、視力の調整という眼鏡の目的達成のために、片時も休むことなくしっかりと役割を果たしています。会社もシステムです。その一部を担う社員の役割を考えるに当たり、この辞書の説明は実に分かり易く書かれています。

 

6.オックスフォード大学を卒業したバンカーはこの辞書のことなど知る由もありませんが、私たち英語を母国語としないものにとって、貴重な1冊です。但し、インターネット上で言われる『フィッシング』などこの辞書が作成されてから生まれた新しい言葉をこの辞書で探すことは出来ません。